2009/07/20

「霞が関・自治体クラウド」に約200億円の補正予算、実現の可能性は? - 記者の眼:ITpro
- Reference: http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20090507/329559/?ST=govtech&P=2

ITproの記事をみてみると霞が関のバックオフィス業務のクラウド化と、地方自治体業務のクラウド化の2つの内の地方自治体の方が日経新聞の一面にでていたものらしい。「霞が関・自治体クラウド」に約200億円の補正予算、実現の可能性は? - 記者の眼:ITpro

地方自治体の業務アプリをクラウド化すると聞いて、 自治体全体で石川県がやったような既存のソフトウェアの共有化するのか、 salesforceようなカスタマイズ可能なソフトウェアファームの共有化をするのか、 どっちにしても難しいんじゃないかなぁと思いました。 よくあるレベルの「アプリの事は各SIerの人よろしく」なクラウド環境が提供される事を心配しています。

ただ元ネタの「ICTビジョン懇談会 中間取りまとめ」では、社会を強力にバックアップするエコシステムを作るのだと、その目的や理念は明確です。これを経済的な利益を目的として参画する方々が理解し、共通の目標にする事ができればすばらしい結果を得る事ができるだろうと思います。

ただ、それなりの規模のサーバーファームの運用に携っていた経験からすれば、心配になるのはもっと現場に近いところのことです。 クラウド環境を作るとはいっても、現在のよくあるクラウドなサーバー環境では迅速なインフラの提供とバルクでのバックアップといった管理が行なわれているだけで、アプリレベルでの運用コストを分散する事は行なわれていません。 アプリ固有の事柄は各利用者が設計や実装のコストを負担しているのが実情です。 今回のようなクラウドを利用する各都道府県レベルではトータルでの開発・運用費を削減するため、アプリレベルでの機能要件、非機能要件の双方を統一する強力なガバナンスを導入する必要があるでしょう。

一般的にはSIerが構築したアプリをマニュアルとセットで運用組織に引き渡す事が小規模な開発案件や 社内業務アプリの開発では行なわれていると思います。 これを繰り返してアプリが1000ぐらいになったと想像すると、1000セットのマニュアルを暗記する事はできず、前提とする監視系であったり年数回のリストアテストに耐えるための手順の前提なり、共通化するべきところができてきます。 大規模かつ長期間の運用を想定するなら、あらかじめ、こういった部分のルールを共通化しなくてはいけません。

まぁサーバー環境はクラウドといっているのですから、かなり制約の強いロバストなサーバー環境が提供されるとしましょう。 魔法(麻薬?)を使って任意の数のサーバーインスタンスを任意の時点の状態にバックアップから戻せば良いと考えられれば楽になります。(もちろん「魔法」は「考えられれば」に係ります) しかしまだまだ考慮するべき点はあるはずです。

集約が持たらす寡占化と競争の沈静化

アプリなのかサーバー環境なのかわかりませんが、今回は都道府県単位での集約化が想定されているとあります。 いろいろあって最終的に都道府県単位でアプリレベルでの共通化が成功したとすると、各市町村が同一のシステムを利用した場合に得られるメリットは何でしょう。 期待されている事は、集約化に伴なう業務効率の達成とコストの削減と考えるべきではないでしょうか。 コストの観点から無駄を省きたいと考えるのが自然と思われます。

それと同時に都道府県のトップがシステムのアーキテクチャを掌握する事となります。 都道府県トップを「公家」、実力部隊であるベンダーを「武家」とすれば、 それまでの市町村毎ベンダーによる群雄割拠の時代は終わり、 事実上いくつかの有力なベンダーによる支配が始まる事になるでしょう。 戦争の時代は終わりを告げることとなり、「よりよいアプリ」=「現在あるアプリ」となり、 さらに良いものを提供しようとする競争もまた終わりを告げます。

データフォーマットの共通化

競争を生み出すためには囲い込まれないようにする工夫が必要になります。 それはいろいろ考えられますが、アプリレベルで考えるとデータに対するアクセス権を確保する事。 これによって共通の土台(データアクセス)の上に複数のアプリを構築する可能性が開けます。

考え方自体はSOAなんですけれど、”SOA=Webサービス”な変な理解が進んでしまうと、目的と手段が入れ替わってしまうんですよね。確かにWebサービスは環境や実装に対してニュートラルでラッパーとしてうまく動くと思うんですが、まぁ目的が達成できれば手段は何でも良いでしょう。

新規サービスの創出

集約化の範囲はまったくわからないんですけどね。 都道府県単位でアプリを共通化しても、固有のサービスを提供したいという自治体がでてきてもおかしくありません。 データがクラウドの中にあるのであれば自治体は手足を縛られたと思うような気がします。

ある程度の柔軟性は大切で、これがキーになるかもしれません。 いまよくあるSaaSタイプのアプリケーションを提供する環境でも、都道府県全体といった規模で稼働するアプリのデータを利用して追加で市町村といった特定のクライアントにサービスを提供するのは微妙かもしれません。

まとめらしきもの

結局のところ既存のクラウド環境はアプリ開発者、利用者を適当なところで切り捨てることでビジネスモデルを構築しているような気がします。 規模の大きな現状のレベルのクラウドを政府が提供するだけでは意味がないというか、 身内にアプリ開発・提供者を抱えてしまうので、運用に対する無限の要求に答える圧力に負けないでしょうか。

ロールプレイをちゃんとやって役割分担や想定されるシナリオを準備しないと、民間部門でうまく動いているようにみえる仕組みがパワーゲームの末に成立していたりするかもしれません。 ちゃんとカスタマイズできれば大丈夫だと思うんですけど、ベンダーに投げてしまってはどうにもならないでしょうね。

ICTビジョン懇談会の報告書の内容は、取り上げられた部分以外にもいろいろ全体の方向性を示すものとしては良いと思うんですよね。絵に描いた餅にならなければ良いのですが。

0 件のコメント: