今日の午前中までで「 共生のための技術哲学 村田純一編」の第一章までをようやく読み終りました。 この本は国立新美術館でみつけた本で、ユニバーサルデザインについての話題に関連した論文が収められています。 ライブラリで途中まで読んだのですが難しくて読み切れなかったので、amazon経由で入手しました。
この第一章の論文に出てくるキーワードはいくつかありますが、その中の一つが「予防原則」でした。
第一章を読む 〜社会構成論と予防原則〜
「予防原則」については漠然と意味は想像できたのですが、ちゃんと調べてみるとwikipediaのリンク先になっている「 予防原則に関するウィングスプレッド会議/声明」というサイトに辿り着きました。
概ね意図するところは、次の2点に集約できるようです。
- 企業、政府に対し、科学的な根拠がその時点で明確でなくとも、発生した事象から先行処置を講じる事を求める
- 立証責任を行為者の側に移すこと
具体的には深刻な環境汚染などが発生した時点で、汚染源と考えられる物質の排出規制など(強制力のある対応)を講じるよう政府に求めるということを想定しているようです。
この論文では、その結論に至る過程で、極端にこの主張を利用することの懸念について述べられています。 懸念を持つ人達が極端に全ての行為を停止させることさえあるでしょうし、それを受けて(おそらく企業側が)予防原則によって、全てのイノベーションが停止してしまうという懸念があるという指摘もあります。
それで、どうするのか
日本で身近な例では、遺伝子組み換え大豆やトウモロコシがあるでしょう。 論文の著者はナノテクノロジーを例として取り上げています。
ここまでを読んで、予防原則に伴う懸念は合理的な説明のつくところでバランスを取れば良いよね、と考えていました。 なにしろ立証責任を請求人に置かなければ、無制限に嫌がらせのような申立を行なうインセンティブを与えたようなものになってしまいます。
しかしこの論文の前半の社会構成主義について説明なども読むと、そもそも説得が難しいかなり主観的な問題提起を出発点としているのですから、現実的に説得が可能なのかという疑問も湧きます。
双方の立場を考えれば、元々のあるべき姿から離れ、事業主は言い掛かりだと考え無視しようとし、申立人は事業そのものが環境に負荷を与えているから操業を止めるべしという考えを持っていても不思議ではありません。
この論文の結論としてはナノテクノロジーの諸技術のリスクを従来の化学物質のリスク評価を応用する事で、そのリスク分類に沿った対応(モニタリング、規制)を取ることで柔軟な対応が可能だとしています。 その解決方法自体は他分野のソリューションですが、それを導出するための論理展開には社会構成主義の観点が有効そうです。 ただし具体的なツールについては述べられていません。
とりあえずの感想
科学的な根拠と呼ばれるものも、その基準値の決定、あるいは決定方法は社会的、政治的な影響を受ける可能性を否定することができないでしょう。 少なくとも事業主はビジネスを継続させるために、最低限の根拠があれば、それ以上の影響に関する調査・研究を継続するインセンティブを持たないことになります。 その研究の先には現在の理論が否定され、ビジネスを継続することができなくなるという恐れを持っているといい換えることができそうです。
そういう意味では社会構成主義の観点には意味があると思います。 しかしこの観点だけでは分析はできそうですが、論文で行なわれているように他の分野の知識を導入することで実際の問題解決を行なう必要がありそうです。 この他分野の知識を導入するところで恣意的な選択が働く可能性があり、客観的に状況を捉える能力を前提として持つ必要がありそうです。
分析者が、自分は研究者でステークスホルダーではない、という主張をしてみたところで、それを証明することは難しそうなところに社会構成主義の落とし穴がありそうな気がします。
ソフトウェア技術の社会構成主義は応用が効きそう
ソフトウェア技術はその出自を考えると、自然法則の利用というよりは、社会や企業の論理が色濃く反映されているといえるのではないでしょうか。 問題を解決するために作成されるソフトウェアも、様々な制約の元に作成され、プログラミング言語やライブラリ・フレームワークの選定には設計側の意向が反映されるのではないでしょうか。
まだ社会構成主義をフレームワークとして知ったところで、その分析のためにどんなツールを持っているか理解しているわけではありません。 これからのリサーチ次第ですが、特にSOAを語る時に組織に分散している分断されたソリューションをまとめる意義や、そもそもソリューションが分断していること自体が間違っていると認識させるために(これは私の主観ですが…)説得力のある論旨を作成できる可能性には少し期待を持っています。
ステークスホルダー自身がフレームワークを適用することで、客観的な観点を手に入れることができれば良いんですけどね。 いまのところはあくまでも客観的な第三者の視点が必要そうで、その点に注目してもう少し勉強してみようと思います。
この記事で取り上げた品々
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