2010/04/08

デザイン思考という言葉

はじめに

しばらく前にいわきに日帰りで遊びにいった時に、駅前のビルに入っている市立図書館に入りました。 そこで中を歩いていたところ、たまたまデザイン論の本棚が目につきました。

その本棚にあった一冊が「 デザイン言語2.0」で、慶應義塾大学出版会が出している本ですが、時間があったので2時間ほどで全体に目を通してみました。 おそらく、この分野を知らない私のような人間にとって、価値があるのは前書きにあった奥出直人先生と脇田玲先生の文章と、自分の知っている領域の方が書かれた本文の論文一本だけかなと感じました。

読み終った後で心に残っていたのは次のような言葉でした。

序:デザイン思考とデザイン戦略 P.10

彼らの考えに従えば、「デザイン思考」とは、
1)観察対象に感情移入をして経験を拡大し、
2)一気に物事の本質を見抜き、
3)それを物語として語り、
4)プロトタイプを構築して検証し、
5)実際に人びとに使ってもらい、その有効性を検証する、
というプロセスそのものである。

序:「デザイン言語」のアップグレード P.24

知識は、理解の一部にすぎない。
本物の理解は、実際の経験によって得られる。
セイモア・パパート

どちらも両氏が作った言葉ではなく、本文を補強するために引用されている文章ですが、ソフトウェアに関わる人間には大切な言葉のように思えました。

ほかに興味深い論文もありましたが、とにかくこれが「デザイン思考」という言葉との最初の出会いでした。

国立新美術館にて

先日、以前働いていた会社の方からお花見に誘われて、のこのこと東京見物にいってきました。 到着した日はチェックインまで時間があったので、乃木坂にある国立新美術館に行きました。

以前、横浜で暮していたときには、あまり外に出る機会を作りませんでした。 その反動か田舎に引っ込んでからは東京に行く度に、いろいろ見て周るようになりました。

その国立新美術館の上にはライブラリが併設されていて、大抵は画集などの美術書を閲覧する人が利用するような雰囲気の良い場所です。 しかし、たまたまその奥に工業デザインの歴史や、デザイン論についての本が並んでいて気になる本をいくつか読んできました。

そこでみつけたのが、「 デザイン思考の道具箱 奥出直人著」と「 共生のための技術哲学 村田純一編」の2冊でした。 他にも気になる本は沢山あって、数は少なくてもポイントを抑えているすばらしいライブラリーだと思います。

閑話休題:図書館の役割

大学に行けば別ですが、地元の図書館だと、新書やハウツーといった実用的な本、その時々で必要とされる本、が中心に並んでいます。

限られた予算とニーズを考えればしょうがないと思いますが、デザイン論のような本はほんどなく、デザインの本棚には画集などが並んでいます。 画集も大切な資料ですが、全体的に資料的な図書の少ないところが残念です。

おそらく地元の図書館は、短期的な利益を求められる企業経営のようなものなのだと思います。 その弊害が長期的にみて所蔵価値の低い図書の収集という結果につながっているのでしょう。

とはいえ歴史関連の図書収集には力を入れているので、司書さんも割り切っているんだと思います。

「デザイン思考の道具箱」を読み始めて

さて、この本に限りませんが、とても良い観点から構成されているのに、その全体からなんとなく違和感を感じるときがあります。

うまく言葉にできないのですが、それは私がコンピュータと利用者のインタラクションではなく、プログラマーとコンピュータのインタラクションに、より注力しているせいなのではないかと思いました。

この「プログラマー」は"プログラムする人"という意味なのですが、私の頭の中では「利用者」とほぼ同等の位置付けです。

一般的にコンピュータの「利用者」と書かれた時のニュアンスは「消費者」に近いことが、この違和感の一因なんだろうと考えています。

本を読みながら、iPadにまつわる報道に触れるとコンピュータの利用者はますます消費者の側に近づいているなぁと感じます。 また同時に、日々の生活を楽にするような用途のためにコンピュータを使っていくことはできないだろうかという方向に考えを深めてしまいます。

おそらく私がしなければいけない事は、批判ではなくて利用者がコンピュータを少しは自分の側に引き寄せて、便利な道具として使えるようにするためのソフトウェアをプロトタイピングすることなのでしょう。

大人であれば知らないことが罪になる場合もあるでしょう。 それど同様にエンジニアであれば、批判に終始しソリューションの模索を怠ることは罪でしょうから。

そうはいっても革命的なものが必要ではないんですよね。 道具はもう手に入っているのだろうと思います。 普通のおじさまが認識できるデータ構造とフィルター的な可視化とデータ処理ができる環境を与えて、バリコンを回してインピーダンスを合わせる程度の作業で操作できれば。

結局はデザインの問題なんだろうと思います。

この記事で取り上げた品々

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