2007/01/14

キーワード:インセンティブ

年末年始の休暇を利用して読み進めていた本がだいたい終った。 他にもその前から積んである本はいくつかあるけれど、今年を初めるためにそれなりに必要かなと思ったものを選んで平行して読んだ。
今回のキーワードはインセンティブ。

「ヤバい経済学」とかで利己的な人間の行動原理として述べられている言葉です。 今回読んだ本はだいたいこんな感じ。

  • フラット化する世界(上下巻) - トーマス・フリードマン (原題: The World Is Flat - A Berief History of the Twenty-first Century)
  • 世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す - ジョセフ・E・スティングリッツ (原題: Making Globalization Work)
  • 国家の品格 - 藤原正彦
  • ウサギはなぜ嘘を許せないのか? - マリアン・M・ジェニグス (原題: A BUSINESS TALK: A Story of Ethics, Choices, Success And a Very Large Rabbit)

上から本の厚い方から薄い方に並んでいますが、意図としては読んで内容が薄かったと思う順番に並べています。
満足度を読んだ時間で割ると、さらに差が出るという事ですね。 最初の3つがグローバリゼーションについて触れている点からすると最後の本は仲間外れですが、まぁいいでしょう。

The World Is Flat

トーマス・フリードマンの書いた本で、ビジネス書ですね。 ビジネス環境を変革する使命を持ったビジネスマンが自信を持って仕事ができるように、迷ったり、疑問を持っても走り続けられるように励ましの言葉が書かれている、そんな印象を持ちました。
そんなに悪い本ではないですが、おそらくインタビューを受けた人達の意図が反映されているのか、疑問に持った方がよさそう。 そんなに変な本ではないですが、括弧書きのインタビュー部分は事実として捉えて、その後のフリードマンの解釈は疑ってかかる、そんな読み方がお勧めです。

インタビュー部分は事実で、幅広く情報を集めているので価値はありますが、フリードマンの解釈はまぁ新興宗教の勧誘なみに重要な事実には意図的に触れずに、自分の主張に都合の良い体裁を整えているという印象を受けました。
「〜である」という部分はツッコみどころが満載のおもしろい本です。

でも(いまのところ?)トンデモ本ではないし、それなりに良い本でした。

MAKING GLOBALIZATION WORK

"The World Is Flat"の本のオビにも推薦の一言が載っているノーベル賞を受賞した経験のある経済学者スティングリッツ先生の著書です。
この本の中でフリードマンがいっている「フラット化する世界」は逆フラット化していると述べていて、でもフリードマンを全否定しているわけでもなく、オビに書かれていた推薦文はそれはそれで正しいんだと思います。

率直にまじめに格差是正のために何ができるのか、これから各国の首脳が取れて実効性のある政策について提言がされています。
人が動く動機はたいがい「インセンティブ」にあると見るその視点が徹底されていて、利己的な人間たちをどうやって誘導するか、相互にインセンティブのある提言となるように配慮されている様がみてとれます。

この本に書かれているような事ができるかどうかは、先進国とそのリーダーたちが利己的なインセンティブをある程度は捨てて、世界を正しい方向に導くんだという行動からインセンティブを受けられるかどうかにかかっているのかもしれません。
まぁ世界中の有権者が、スティングリッツ先生のいう通りにしないと投票しないっていう意思表示ができれば、世界がかわるかもしれない、そんな幸せな気持ちにさせてくれる一冊でした。

国家の品格

いうまでもなく日本のベストセラーですが、いま頃読みました。はやりの本は、旬のときにはあまり読まないのです。
スティングリッツ先生が非常に崇高な高みから、世界の情勢を憂いているのに比較すると、酔った日本の親父がうだうだいっている雰囲気が漂っていますが、読み応えはあるし、飾っていない分だけ読み易い本だと思います。

不思議な事に主張の一部はスティングリッツ先生が述べている事と重なっていたりします。 でも日本の田園風景を守るために必要な事は、日本人が武士道を忘れてしまったおかげで、国がどうのこうというのではないような気がします。

日本が正しい道に進むためには、不正を行いたくなるインセンティブを排除する事が必要なんでしょう。 関税を引き上げて国内産業を守った場合にも、賞味期限を切れた牛乳使ってみたり、日付付け替えたりする日本人がいるわけで、とんでもない農薬を使ったり不正な方法で収穫高が上がるような事をしたりするかもしれない。
いろいろな監視は国内、国外を問わず必要なんでしょう。

牛肉の場合は日本で行なえているようなトレーサビリティは米国にはないし、でもそれって日本みたいに高級肉として売れるからなんじゃないのかな。米国の大企業にとってはコストがあわないんじゃないのかな。 報道でも米国の小さな牧場は全頭検査でもいいから出荷させろって政府に言ったことが報道されていたけれど、大企業の意向で動くとすると、とても承諾できないだろうなぁ。全頭検査なんて。

日本では青森あたりで豚肉のトレーサビリィティを行なおうとして、税金を数億円飲み込んで倒産した第三セクターがあったはず。
その気はなかったのかもしれないけれど、ひょっとしてお金を支出する事が目的だったんじゃないの?と勘ぐりたくなるほどなぜ失敗したのかわからず、これだけお金を使って失敗ってことは、計画段階から失敗含みだったんじゃないかと思えるほど。

話しがそれましたが、武士道って素敵な響きですよね。 なんで不正しちゃいけないの?、なんで公金を失敗するとわかっているプロジェクトや無駄とわかっている出版物の購入に使うの? そりゃインセンティブがあるんだからしょうがない。 そんなしょうがいない事も「ならぬことはならぬことです」という一言で済むんですから。 これは武士道ではないか。まぁその頃の言葉という事で。

A Story of Ethics, Choices, Success, And a Very Large Rabbit

この本は一番薄くて、インセンティブに魅かれる人間たちを描いた本です。 日本人には武士道、欧米人にはうさぎというところでしょうか。

日本版監修者の山田真哉さんも書かれていましたが、アメリカでこういう本が書かれたという点がおもしろかったです。
というか勇気づけられました。

結局卑怯な事ってよくないわけなんでしょうね。世界中どこでも。 アメリカの場合は法律やスポーツのルールのように、合意が取れている事に反抗しない限りは卑怯とは呼ばれないんでしょう。
職場の後輩にも書かれていない事をやって「やっていいと思っていました」ってのがいますが、(いきなりレベルが落ちたな…)、自分の頭で考えて、胸に手を当てて、顔を上げて生きていけるような事を毎日しましょう、というわけです。

ただそれって人によって受け止め方が違うし、主観の問題だから、こういう本で啓蒙しないと、私の観点で卑怯だと思うような事をやっている人も胸を張って、顔を上げて、笑顔で毎日過せるモンスターのような人間たちに立ち向かえないわけです。
日本人にもたまにそういう人がいますね。 ほりえもんは卑怯だけれど、それで胸を張っていきていけるような強い心臓しているようにはみえません。 欧米にいるそういう人達のまねをしているような。 家族関係やその生い立ちに興味深い点があるという事では、斎藤学先生の研究対象に最適かなと思われます。

まとめ

どれもこれもおもしろい本でした。 いろいろ書いたけれど、買った事を後悔する本はなかったということは述べておきたいと思います。

さて世界中で武士道とはいわないけれど、こういう観点で合意が取れるのだったら、スティングリッツ先生のいう世界が実現するのかもしれません。
ひょっとすると共産主義も武士道を習得した国家、国民の元ではうまく機能するのかもしれない。

けれど日本人が武士道を忘れてしまったように、人間は簡単にインセンティブをみつけて転びますね。 卑怯だからといってそのインセンティブを見過していたら、誰かが飛び付くでしょう。
残念ですが、そういう事ができないように、卑怯な事を法律として制定していく…。 ああ、結局アメリカと同じように法律に書かれていない事ってやっていいのかなぁ。

いやいや、そういう事を「カッコわるい」と思って自粛するように、面倒な事でも「カッコいい」といって進んでするような人間がこれから必要ってことなんでしょう。
今日(?)の歩数 ;カッコ内は10分以上継続して歩いた「しっかり」モードの歩数

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